
朝から晩までバス停のベンチに座っているじいさんがいた
気づいたのは、勤めている会社が移転して
バスを使うようになってからだ
出勤前と帰り道、じいさんはキレイな身なりでベンチに腰掛けている
陽が短くなったある日
俺はじいさんに声をかけた
“夜風は体に毒ですよ”
じいさんは静かに会釈をしてバス停を後にした
翌朝、俺はじいさんと同じエレベーターになった
そのとき、同じマンションに住んでいることを知った
バス停までの道中
じいさんは一人暮らしをしていることを教えてくれた
その夜、俺はバス停にいたじいさんを夕飯に誘った
奇妙な話だが、そのときは自然に声をかけていた
じいさんは恐縮しながらもうちで夕飯を食べ、
息子夫婦の話をしてくれた
息子と大ゲンカをして勘当してからは
10年以上会っていないという
寂しそうな表情で話していた
じいさんの家に一度だけ行ったことがある
奥さんをなくして独り身になった後
実家を売り払って、この町に住み始めたんだそうだ
息子夫婦が住んでいるこの町に
秋が深まったころ
バス停でじいさんを見かけなくなった
俺は気になってじいさんの家に行ってみたが
すでに空室になっていた
それ以来、じいさんがどこへ行ったのか知らない
でも、夏が終わるこの季節になるとふいに思う
きっとじいさんは、バス停で“偶然”出会った息子と仲直りして
今は楽しく暮らしているんだろうな、と

