
東京で生まれ育った身としては
里帰りや帰省という感覚がない
田舎に帰省したいと感じるのは
まさに無いものねだりというやつか
親父が転勤族だったこともあり、
実家はつねに賃貸マンションだった
だが、親父の定年退職を前に
都心にマンションを購入した
一軒家に住み慣れていない親父が選んだのは
住み慣れたマンションだった
その翌年から、里帰りは都心の高層マンションになった
お盆に帰省すると
親父は必ずといっていいほど
近所のおじさんを集めて囲碁に熱中している
趣味のなかった親父だが
マンションの寄り合いを通じて
囲碁と釣りという趣味を手に入れた
母親は編み物の趣味が高じて
週に一度、自宅で近所の人を集めて
編み物を教えている
「最近は高校生の女の子も来るのよ」
娘のいない母親は嬉しそうに話す
だからだろうか
以前よりも実家がにぎやかになった
親父は俺を囲碁の練習台にと誘い
妻は母親からレースの編み物を習っている
実家の居心地のよさってのは“住んでいる場所”ではないんだな
今では違和感を感じることなく
“都心の田舎”へと“帰省”している

