
都会に住むようになって見ることがなくなったもの
子供のころは、夏が近づくと川原でホタルを見るのが日課になっていた
川一面を美しく照らし出すあたたかで美しい光
ホタルのいる景色は、町からどんどんなくなっているという
息子が幼かったころ
ホタルを見せてやりたくて
家の近くにある川原に出かけたことがある
運がよければホタルに会えると聞いたが
結局、光る虫は僕たちの目の前に現れなかった
「光る虫なんているワケがないよ!」
息子にホタルを見せてやりたかったが
都会の水は甘くないのだろう
息子が小学校に入学したときのことだ
マンションの中庭を通りかかったとき
「パパ、あれ見て!」
息子が指差す方向に
ゆらゆらと動く小さな光を見つけた
―ホタルだ…
かつて見た一面に煌々と光るホタルの群れではなく
“一粒”だけの光
不安定に動くその寂しげな光は、ただそれだけで憂いのある表情を見せてくれる
大人になった僕は、初めてその表情に触れることができた
初めてホタルを見た息子は
フワフワと動く優しい光を楽しそうに目で追っていた
「ホタルってテレビでしか見たことがなかったよ」
たまたま、“運悪く”ここへ紛れ込んでくれたホタルに思わず感謝した
都会の水もまだまだ捨てたもんじゃないんだな
※ ホタル 見ごろは7月下旬まで。東京近郊では青梅の成木川や板橋区ホタル飼育施設で “運がよければ”出会うことができる

