
男は詩を描くことをなりわいに
ある女性と恋に落ちた
彼は詩人であるゆえ
ときに彼女へ恋の詩をうたったことを
想像することは難くない
そして、生まれてくる息子への愛の詩も
綴っていたに違いない
――とてつもなく果てしない世界で
これからこの世に生まれてくる
僕のもうひとつの命のかたまり
愛おしいとは
きっとそういうことなんだろう――
限られた人生の中で、何度も経験することのない感動
愛する彼女に、男は自分のもうひとつの命の塊を託し
ある初夏の日、 もうすぐ会える命と出会うことなく
突然に人生の幕を閉じた
“おとうさん、ありがとう”
その声を、聞かないまま
とてつもなく果てしない世界へ
ただひとりで旅立って行った
その約1か月後の暑い日
男が誰よりも会いたがっていた命がこの世に生まれた
男がこの世界に唯一残した形見は
自分でも気づかないうちに
書く仕事に就き、書くことをなりわいにしている
読書感想文さえ書けなかったのに
今では自称ではあるが
俺は詩人を気取っている
それは、きっとその男に
知らず知らずのうちに
誘われていたからだと思う
俺はことし、親父の年齢をひとつ上回ることができた
子供のころには気づかなかった
自分の中にある誇りに 気づくことができた
父親に感謝
母親に感謝
どれだけステキな言葉を並べたところで
この感謝の気持ちはあらわせない
どうしようもなく親不孝な息子だったけど
なんとか書くことをなりわいにしている
俺が行けない世界にいるけど
少しは喜んでくれているかなあ
お父さんの笑顔は見たことがないけど
きっと笑っているに違いないよね
その笑顔に少しでも、ほんの少しでも近づけるように
今日からまた新しい1歩を踏み出します
“お父さん、ありがとう”
俺と息子が同じ誕生日なのは
なにも運命だなんて思っちゃいない
まだ見ぬ父親への感謝の気持ちを込めて
息子へのこのうえない愛情を込めて
ただ見守ってやりたいと思う

