
映画が大好きな大学生だった
ヒマをもてあましていたのかもしれない
毎日映画を観ていた
当時通っていた映画館は
今はもうなくなってしまったけれど
毎日のようにビール片手に通っていた
映画の終わるころには飲みすぎて酔っ払っていた
映画を観た帰り道は
ストーリーを反芻しては、笑ったりしていた
友人や家族と観るのももちろん楽しいが
気分を独り占めする愉しみもあったんだな、そう思う
大学を卒業したあと
その通っていた映画館の面接試験を受けた
その映画館の支配人さんは、面接にやってきた若造に
「あんたにお願いしたい」 と言った
その日、劇場内をくまなく案内してもらったときに
映写機を見せてもらった
ごつい手で映写機を触りながら
「もう長い付き合いなんだよな」と話していた
だけど、その映画館の仕事は断り
雑誌の映画ページの編集バイトを選んだ
そのときは、雑誌の編集を通して
もっと映画のことを勉強したい、そう考えていたのかもしれない
出版社での最初の仕事は各映画館のタイムスケジュールを製作する作業だった
その中に、仕事を断った映画館もあった
電話で支配人さんに挨拶はしたものの
「面接ではお世話になりました」とは最後まで言えなかった
それから1年が経ったころ、別の編集部への異動が決まった
お世話になった映画館へ挨拶回りに行くことになり
もちろん、1年前に面接を受けた映画館にも行くことになった
電話を入れたときになって初めて、自分の名前を明かした
思えば、厳しくて愛嬌のない、言葉少なげな支配人さんだったが
そのときになって初めて「あぁ、知ってたよ」と優しく言ってくれた
数日後、1年ぶりに訪れた映画館は当時と何も変わっていなくて
支配人さんもあのときと同じ表情で迎えてくれた
何も言わず、無言で劇場内を案内してくれた
映写機のある部屋に入ってはじめて
「よぉ頑張ってくれたなあ」
当時は少し寂しそうに感じたが
今では、喜んでくれていたとも思う
最近、映画を観ていなかったな
ふと、ひとりで映画が観たくなった
観た後のあの心地よさを
久しぶりに感じてみたくなったからかもしれない

