ショートストーリー

AT THE BALCONY 十人十色の住人が毎日さまざまなドラマとともに過ごす集合住宅。そんなマンションに住む人々とともに今日もどこかで生まれている物語の断片を紡いでいきます。 Vol.2 「カレーの匂い」

昔に比べて、カレーの匂いって
少なくなったと思う
子供のころは近くの公園で
夢中になって遊んでいても
カレーの匂いがしたら
急いで家に帰ったもんだ

今でも、仕事の帰りにカレーの匂いがすると早く帰りたくなる
それが、自宅からのものであるのがわかると
なぜかワクワクしてしまう

子供のころ、日曜日になると親父はバイクで連れ出してくれた
大きなヘルメットに、大きな背中
流れるような景色が好きで
いつまでも、見ていたかった
いつまでも、あの大きな背中に
つかまっていたかった

今でも好きなのは
海岸沿いの道を往復するときの景色

景色は変わらないはずなのに
真っ青だった空が
帰りには夕陽で真っ赤に染まっていた
空も海も

赤く染まった街並みは
休日が終わってゆく寂しさもあったけど
親父と出かけた日、
家に帰ると、必ずカレーの匂いがしていた

その匂いは
寂しさを忘れさせてくれた
大きな背中越しに
「今日はカレーだぞ」
と言った親父も
きっとカレーが好きだったに違いない

カレーの匂いには不思議な効力がある

週末は、久しぶりに料理でもしてみようか
たまに作った料理は
必ずまずいと言われるけど
カレーだったら
喜んで食べてくれそうな
そんな気がする

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