私の住まい ライフスタイルインタビュー

第3回 今井 雅之さん MASAYUKI IvMAI

日本の風土に合った和風建築 母の胎内のように自分を 包み込んでくれるような家が理想

日本文化や日本人の素晴らしさを世界に発信したい……
そんな熱い思いを抱いて映画製作に情熱を傾けてきた俳優の今井雅之さん。
「家よりも映画」と思ってこれまで生きてきたという。
しかし40歳を超えるころから、ふと落ち着いた和風の家への憧れが心に宿るように。
今井さんの思う理想の家とはどんな家なのだろうか?

生まれ育った家は部屋の数が20

「先日、テレビの仕事で実家を紹介したんですけどね、なんと15年ぶりくらいに入った部屋がありました。毎年1回は実家に帰っていますが、それでも全然入ったことがなかった部屋で、“いやー久々だな、この部屋”と思いましたよ」と語るのは個性派俳優にして、映画や舞台のプロデュースでも活躍している今井雅之さんだ。

15年も入ったことがない部屋があるとは、いったいどんなお宅なのか。ミステリアスな雰囲気が醸し出されるが、実は今井さんが生まれ育った家には、なんと部屋が20以上もあるというのである。
「田舎ではそういう広い家が当たり前だったんです。坪数が800坪くらい。どこの家も広い庭があって15部屋くらいはふつうにありますよ。田舎だと男は家で判断される。一国一城の主というか、立派な家を構えているかどうかで評価されるんでね」
ただし、今井さんのお宅はお父さんが増築が趣味だったということもあり、継ぎ足し継ぎ足しで部屋が増え、平均よりもやや部屋数が多めらしい。

「正確には2.5階建ての家。一番上に物置があって父親が集めた鍋とかコーヒーカップ300個とかが置いてありました。基本的には和風建築で縁側があって、障子をとっぱらうとぱーっとつながってしまうんだけど、その横になぜか洋間がくっついていたりして。母は掃除するのが大変そうですよ」
今井さんに与えられた子供部屋も6畳と8畳の2部屋だった。家の中でかくれんぼができて、しかもなかなか見つからなかったというから驚く。

「家より映画で」マンション暮らし

このように、家は広いのが当たり前という環境に育った今井さん。俳優を目指し都会で暮らし始めたときは大きなカルチャーショックを受けた。
「4畳半のトイレ共用のアパートに住んだときは”なんだべ?”という感じでした。座ったまま冷蔵庫は開けられるし、便利だったんですけど(笑)。あのころの僕の夢は役者で飯が食えるようになって、いつでも自由にシャワーを浴びることができるような家に住みたいということ。そこまで10年かかりましたけどね」
その後、今井さんは、原作・演出・主演した舞台『ウィンズ・オブ・ゴッド』で高い評価を受け、テレビや映画、舞台で活躍するようになった。俳優として成功を収めた今は、実家に負けない広いお宅に暮らしているのかと思いきや、奥さんと二人で暮らすのは3LDKのマンションだという。

「最近引っ越したんですが、本当に普通の賃貸のマンションです。実は、僕にとって家はどんなところでもいいんですよ」
実際、家の内装などはすべて奥さんに任せているとか。子供のころあまりに広い家で育ったためか、今井さんには家に対する執着がないのだろうか。
「芸能人が5億、10億かけて豪邸を建てる気持ちがわからない。そんなお金があったら自分の映画を作るべきじゃないかと思うんです。だから僕はお金が貯まったら、映画や舞台に全部使ってきました。多分いままで映画や舞台にかけてきたお金があれば豪邸が建ってたかもしれないですけどね」
今年はいよいよ今井さんが脚本・監督・主演した映画『The Winds of God』がアメリカと日本で公開される。登場人物は日本人だがセリフはすべて英語。アメリカや世界市場を目指しているためだ。
「日本文化はやはり素敵。日本文化の素晴らしさや大和民族の素晴らしさを映画を通じて世界に紹介したいんですよ」と映画への大きな夢を語る。

理想の家は母の胎内のような家

しかし、実は最近微妙な心境の変化があるらしい。
「ずっと家なんていらないと本当に思ってきたんだけど、40歳を超えたころから、鎌倉あたりに住んでみたいなという気持ちが、ふっと湧いてくるようになってきたんですよ。ゴールデンレトリバーとかを飼って、浜辺を朝5時くらいに散歩したり、家庭菜園をやって、たまに東京に仕事で出てきて“これがうちで採れたトマトだよ”とか言って配ったりしたらいいなとか夢想してね(笑)」
鎌倉に惹かれるのは歴史のある雰囲気や豊かな自然。なんとも落ち着くという。
「いや、落ち着きたくはないんです。僕が目指しているのは80歳になってもヤンチャなおじいちゃん……なんだけど、落ち着いた生活をしてみたいなと思っている自分がいることに気がついて。家って、ヤンチャ度を測るバロメーターみたいなところがあるからね。自分がちょっと年取った感じでイヤなんだけど」
40歳を過ぎて、突如起きた自らの心境の変化に動揺し、センシティブに揺れ動く今井さんなのだった。

「でも、ハリウッドで映画1本当てたら大きいですからね。そうなれば鎌倉だけでなくハリウッド、ハワイ、カリブと4つくらい家が持てる。日本には2、3カ月帰ってきて、ハリウッドで仕事して、ハワイやカリブの別荘で金髪のおネエちゃんといるところを写真に撮られて(笑)。それならヤンチャなままでいられるかな」
夢が実現して鎌倉に家を持つことになったとしたら、建てたいのは「母の胎内のような家」
人間にとって一番安全な究極の家は、最初に住んだお母さんのおなかの中というのが今井さんの考え。母胎に匹敵するような安心できる落ち着いた家を作ってみたいという。具体的には和風の家のイメージだ。
「日本には四季がありますよね。夏は暑くて湿度が高くて、冬は寒い。そういう自然とうまく調和して、自然を上手に取り入れているのが和風建築だと思うんです。昔縁側があったのはどういう意味だったのか。なぜ紙と木でできているのか。実家もそうなんですが障子とかを取り払うと、風がさーっと流れて、夏でも扇風機だけで十分涼しい。和風建築というのは日本の文化から生まれてきていると思うんですよ」
理想の家のイメージが次々と膨らんでいく今井さん。それが実現する日が早く来るように映画『The Winds of God』の成功を期待したい。

profile

1961年、兵庫県生まれ。高校卒業後、自衛隊に入隊。2年後に除隊し、法政大学文学部に進学。俳優養成所を経て、ニューヨークのアクターズ・スタジオへ。89年、『226』で映画デビュー。91年、原作・演出・主演した舞台『ウィンズ・オブ・ゴッド』で芸術祭賞を受賞。その後、俳優として活躍する一方、舞台、映画のプロデュースにも関わる。主な出演ドラマに大河ドラマ『花の乱』、『ギフト』、出演映画に『静かな生活』、第1回監督映画作品に『SUPPIN ぶるうす ザ・ムービー』 など。今年、脚本・監督・主演した映画『The Winds of God』が日本とアメリカで公開予定。

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